「すみません。喉に効く飴とかありますか?」
様々な薬が並ぶ薬局。
酔い止め、胃腸薬、風邪薬・・・
何を買おうか迷ったが彼はきっと薬を嫌がるだろう。
何故僕が此処に来たか。
それは昨日のことだった。


“のどあめ”



あまりにも授業がつまらなくて外に出た。
でも、先生たちに見つかるのだけは嫌で、人気のな
い場所を探した。
見つけた。日陰になっていて涼しい体育館裏。

誰も居ないだろうと踏み出した先に、一人の少年。
猫みたいな顔をしていて、くっきりした二重目蓋。
顔はなんとなく赤い。

興味を持ったので彼の隣に座ると彼は薄っすらと重
たそうに目蓋を開けた。
そこに覗く輝く黄金色の瞳。


「ん?あんさん誰や?」
「こんにちは、僕は牛尾御門。」
「あぁ。野球部の部長やろ?知っとるで。」
そう言って犬歯を除かせて笑った彼はやっぱり猫だ。
わひゃひゃと笑ってまた目を閉じた。
そして、きつそうにゴホゴホと大きな咳をしていた。
「風邪かい?」
「知らん。煙草の吸いすぎやろか?」
咳を続ける彼を見て、僕に出来ることはないのか。
と罪悪感に陥った。

あぁ、僕はなんて無力なんだろう。
こんなにもきつそうな彼のために何も出来ないなんて。





そんなことがあって今、薬局でのど飴を買った訳だ。
他に彼のために出来そうなことなんてないから。
今から、体育館裏に行けば彼は居るだろうか?

そういえば、僕は彼の名前すら知らない。

はぁはぁと息が切れる。
体育館裏に着いて屈みこむ。疲れた。

「あれ、牛尾御門や。」
「やぁ。」
何もないフリをして笑顔を作った。
「喉の調子、大丈夫?」
「まだ、よくならへん。」
「あの、これ・・・・・」
そのまま差し出した。紅い箱。
なんとなくチェリー味にした。駄目かな?

「お前小道具なんか使うなや〜!」
「ぇえ!?小道具って?」
「まぁいいや。ありがとー!でも・・・」
「でも何?」
「めっさ嬉しいねんけど箱、古くねぇ?」
「なッ!!!さっき買ってきたんだよ!薬局で!!」
「冗談やて」
二人で大声で笑う。
そして、彼は咽てゴホンと咳をした。

「じゃあ頂きますー」
「うん。いただいて。」
くすくすと微笑みながら彼を見つめていると
「ん!」
と言って飴が一粒手渡される。
「ぇ?いいの?」
「ん。」
「いただきまーす」
ぺこりと頭を下げて口に放ると、チェリーの味が口に
広がった。
「食えっていっとんやけ食えばいいやん!」
と頭を下げた僕に笑いながら言う。
優しいんだね。

「ねぇ、君の名前はなんていうの?」
「わい?わいは黒豹や!黒豹一銭!!」
「そうなんだ。」


日陰になっている体育館裏から見る空は
太陽も見えないのに青くて何だか不思議だった。






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